BLCD沼ぽちゃ

BLCDの感想や男性声優さんについて

『跪いて愛を問う』で語るDom/Subユニバース観

 どむさぶを商業BLで読んだ&聞いたのは、山田ノノノ先生の『跪いて愛を問う』が初めてで。SMでしょ?怖そう…というイメージを覆された名作でした!おととし書いた感想を一部改変うp。

★★★

 昨今盛んであるDom/Subユニバースは、海外発祥の設定をそれぞれの作家が受容し、本人なりの翻訳を通して新たな作品を生み出したものと捉えられる。ここでは山田ノノノ著『跪いて愛を問う』という漫画について取りあげたい。

 

 Dom/Subユニバースの基本的な設定は以下の通りである。

 男女の性のさらに先に「人を支配したい」という本能を持つ「Dom (ドム)」「人に支配されたい」という本能を持つ「Sub (サブ)」という第二の性があり、第二の性を持たない人間は「Normal(ノーマル)」と呼ばれる。作品によっては「Switch(スイッチ)」というDomにもSubにもなれる所謂リバの性も登場するがここでは割愛。

 DomとSubは「Play(プレイ)」という特殊なコミュニケーションを通じて、双方の欲求を満たし信頼関係を築くことができる。Playの中では「Command(コマンド)」が使用され、「Kneel(ニール)=跪け」、「Stay(ステイ)=待て」などの言霊ともいえるDomの命令にSubは無条件に従ってしまう。

 作者によって描き方が様々であるが、この作品ではDom/Subユニバースを次のように解釈し設定を加えている。「Dom/Sub」はSMといった性癖と誤解されがちだが、彼らは本能が満たされない状態で長くいると自律神経が乱れ心身に影響が生じる。しかし日本人は「Dom/Sub」の発現率が低く、特にSubはその特性から安全に欲を満たしたり相手を探すことがとても困難である。Subは支配されたい欲求が許容量を超えると、無意識にDomを誘惑するフェロモンを出してしまい暴力や性被害を引き起こしかねないため、抑制剤や定期的な欲求の発散が推奨されていると。

 

『跪いて愛を問う』あらすじ

【起1】Sub専用クラブでDom役として働く受け:正己のSM風シーンから始まる。

→BLにおいて美少年が磔にされるSM描写の耽美性は何度も強調されるが、最初の時点では受けがサドの側にある。しかしこの受けは、母親がSub性に振り回されて暴力的な男性を求めてしまい苦労させられた典型的なアダルトチルドレンである。もしJUNEだったら育児放棄に留まらず、Dom性を持つ義父や母の彼氏にレイプされていただろう。

【起2】バイト帰りの夜道に見知らぬ青年と出会うが、マゾの客に声をかけられたと誤解した受けはすげなくかわしてしまう。

偶然出会った相手が実は転校生でしたという少女漫画のお決まり展開。さらに二人は小学生のときに重要な経験をしているのだが、受けだけが覚えていない

【起3】攻め:悠生に、それまでNormalだと思っていた受け:正己はSubだと告げられ、初めて使われたコマンドに気持ち良く従ってしまう。(※この時点では最後までしていない)

→つんけんしていた受けと温厚な攻めの立場が逆転する。BLの魅力の一つに、普段は自分のことを強いオスだと思っている男性が、攻めに対しては可愛いネコになってしまう点がある。ある意味メス堕ちとも称されるアレである。大事なことだがメスはメス堕ちできないのだ。それが本人にとって青天の霹靂であればあるほど落差が映える。



【承1】攻め:悠生の献身的な態度から、辛い過去を持つ受け:正己のDom/Sub観が変化していく様子。徐々に二人の心の距離が近づいていく。

→受けを救い上げようとする攻めの姿が『風と木の詩』のセルジュにも重なる。同い年で対等な立場ではあるのだがスーパーダーリン×悲劇の美少年で、庇護するもの×されるものである。

【承2】悠生は支配したいというDom本能に抗いながら、Subの正己の意志を尊重して命令をしないという選択肢を敢えて取る。母親のトラウマから「Subなんて人にバカにされて喜ぶ底辺」だと考えていた正己の心が動かされていく。

「DomとSubは対等」と語り「主従関係があるのはお互いが望んだ時だけ」とする悠生は、正己が身も心も差し出していいと思うまで性交を行わない。BLではかつてお前が魅力的だから悪いとレイプを正当化する攻めも散見されたが、北風と太陽の寓話を彷彿とさせる令和の光属性攻めである。ただし、攻め本人のわんこ系の性格で忘れそうになるが英国に海外留学できるほど裕福で学年一位の秀才、料理上手で将来は医者などとスペック盛りまくりなのは伝統芸か



【転】Sub専用クラブで受け:正己のSub性がバレてしまい、Domのキャスト(モブ)に暴力的なコマンドを無理矢理使用されてしまう。そんな絶望的な状況に悠生が駆けつけてモブを成敗し、サブドロップ(パニック状態)に陥った正己を介抱する。そこで正己が小学生の頃、母親に心無い言葉を投げつけられ衰弱していたとき、側にいて「生きろ」という命令を出し続けて助けてくれたのは悠生だったと思い出す

→正己は小学生の頃からずっとDomの悠生に庇護されていたから、高校で再会するまで他のDomの命令が効かず、自分の中のSub性に気付かないたのだと判明する。実はずっと前から守られていたのだ。

  逆に攻めの悠生の方も、正己と離れていた英国留学中にパートナーとなるSubを探そうとするも、小学生の頃の経験ほどの満足感を得られなかったと作者後書きからわかる。再会愛であり究極のカップル神話に該当するだろう。

 

【結】音信不通だった母との再会、そして克服。正己が大学進学のために必死で貯めたお金をたかりに来る傷だらけの母親に、全て差し出してしまう。

→運命のDomを見つけた自分と対照的に、殴られないと誰にも必要とされないと言うSubの母親を救えないことへのせめての罪滅ぼしだろうか。子供の頃に本当に必要としていた母の愛はついぞ得られず、お金も母のために活かされないかもしれないがせめて力になりたかったのだろう。

 受けが過去に踏ん切りをつけ攻めとの未来へ進むために必要なシーンであった。なお、母は数年後に優しいDom男性に出会って正己に通帳を返してくるが、そこはご都合展開さが否めない。勉強にも熱心だった正己のことだから、おそらく再びバイト代を貯め奨学金も活用するなりして大学には進めたであろうが。数年後(少なくとも6年以上後)の未来では、研修医の悠生とSubを救うためSub専用クラブの店長となった正己が描かれる。

 

 Dom/Subユニバース自体はSMプレイの文脈で用いられることも多いものの、この作品だと二人は常に対等であって、信頼に基づく庇護関係だと描写される。SubもDomもバース性に振り回されながら、それを克服した先にお互いの愛情というものを見つけていった。支配したい/されたいという生理現象が確かに存在する上で、強制ではない形で運命の相手との至高の瞬間に昇華する過程といえよう。

★★★

 なんか難しいこと言いたくて失敗してるけど要は良い話でした!
 分け方とか引用とかいろいろ雑で申し訳ない…。感動を伝えられるよう文章うまくなりたい…。

 BLCDのブログなのでそっちの感想もさらっと触れますね。
 攻めの悠生はCV山下誠一郎さん、受けの正己はCV小林千晃さん。大沢事務所の先輩後輩対決。Twitterで「ジェネリックじゃん」って反応も見かけましたが、わたしゃツイ〇テのキャスティング自体が事務所の関係だと思います。そりゃ同じ事務所の方が頼みやすいし共演の機会も増えるだろうね、ってことで狙ってる訳ではないです多分。知らんけど。

 誠一郎さんにこの令和のスパダリ攻め持ってきたの天才の所業…。ずっと声が優しくて、普通っぽい子なのに安心感があり全てを任せたくなりますね。あとプレイ時のコマンド台詞や激おこシーンはきっちり決めて、低音強いなーと改めて思いました。どむさぶ特有の命令と言葉責めが混じってて、穏やかな強引さプライスレス。

 確か千晃さんは受けが2作目で若干荒削りな部分はあれど、ここは感じている部分って演じ分けがしっかりできててすごーーー!と驚きました。痛いだけじゃない。あとCD冒頭のオラオラドS演技がかなり癖で(笑) いつかガッツリ鬼畜美人攻めも聞いてみたいポテンシャルを感じました。生命力ありそうで不憫すぎない塩梅が良かった!

 いつか……CV千晃さん×CV誠一郎さんのキャスティングも実現したら良いな……とオタクは思うのでした。おわり。